28.ランデブー

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「それで、治るの?」 「分からん。だが、コロニーに戻れば、手はある。まずは、造血幹細胞を輸血する。出発前に凍結保存していた奴さ。次に骨髄移植だ。ここに来る前に調べてみたんだが、クリフォードのHLA型と適合する骨髄の持ち主が、コロニーに一人だけいたんだよ。普通なら一万人に一人の割合だから、物凄くラッキーなことだ。骨髄移植をすれば、かなりの効果が期待できる。それまで何とか保たせなければならない。ギリギリの状況だが、勝算はゼロじゃない」 「分かったわ。すぐに血を抜いてちょうだい。そして、すぐに出発してちょうだい」  ジェニファーはきっぱりと言った。  応急処置と八百㏄の緊急輸血に、そのあとさらに一時間を要した。シェーファーとドクターは、クリフォードに再び与圧服を着せ、自分たちも再減圧に備えて身支度をした。ケイとジェニファーは、クリフォードの「病室」になるラボ・カー荷台のテント内の気圧などを確認し、運び込むための梯子を荷台部分に掛けた。  ケイは作業の合間に、ふとビークルの周辺に目をやった。二台の周囲には、生命の気配を全く感じさせない暗闇が、底なし沼のように広がっていた。数億年前、ここは海の底だった。水深数百㍍だったはずだから、今のように真っ暗だっただろう。もしかすると、そこには生物がいたかもしれない。しかし、今、ケイが目している暗闇は、命を拒絶する虚無そのものだった。 「こんなに深い暗闇、経験したことがない」  隣でジェニファーが顔をじっと覗き込んでいた。 「怖いの?」 「ああ、正直言って恐ろしい。ダイビングしている最中に、突然、真っ暗な海の淵を見たような気分だ」 「確かに吸い込まれるような暗闇だわ」 「ジェニファーは経験あるんだろう?」 「夜は怖いから、テントの中でじっとしているわ」 「この闇の中にいると、つくづく感じるよ。この星が人間の住む場所じゃないってね」 「それはそうね。でも、宇宙はどこも厳しい所なのよ。地球で生まれ育った人間にとっては」 「この星で、人間が暮らしていかなければならない理由は何なのかな」  ケイの質問に、少しの間、ジェニファーは黙って考え込んだ。 「私にもよく分からない。でも、これだけは言えると思う。人間だからこそ、この星で生きていけるんだって」 「人間だから…」
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