29.二人きり

2/6

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
「さあ、そろそろ私たちも出発しましょう。オリンポスまで、あと二千五百㌔はあるわよ」  ジェニファーはこう言ってケイの背中を叩いた。これを合図にヘルメットカメラのスイッチを切った。二人は梯子を使って順番にバギーのキャビンに登った。ケイはジェニファーがドアを閉めたのを確認して、メインパネルのエンジン・スターターを押そうとした。 「ちょっと待って」  ジェニファーがケイの手を遮った。 「今夜はここでハブを使ってキャンプするのはどう? 先は長いんだし、体力を回復しないともたないわよ」  確かにその通りだ。昨日から今日にかけて一気に四百㌔を駆け抜けた。四百㌔というのは直線距離で、実際にはその一・五倍は走っているだろう。こんなペースでこれからも走り続けるのは、肉体的にも精神的にも無理に決まっている。適度に休憩を取り、疲労を回復しながら走らなければ、オリンポスには辿り着けない。ここから先は、二週間以上の長期戦になるのだ。 「もちろん毎日は使えないわ。それほど潤沢に酸素はないから。でも、ここで疲れを取っておかないと、二週間は無理ね。今夜くらいはぐっすり休んでいいんじゃない?」 「疑問の余地はない。この狭い車内で寝るのは嫌だ」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加