29.二人きり

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 簡易エアロックを無事通過し、二人は順に簡易ハブに入室した。後に入ったケイがエアロックからテント内に足を踏み入れると、ジェニファーがヘルメットを外し始めたところだった。 「マディソンの訓練もまんざらではなかったのね。エアロック通過も手馴れたものだわ」  ジェニファー流の褒め言葉だった。ケイはヘルメットを外し、ゆっくりと深呼吸した。マーズ・エンタープライズで半年間吸い続けた機械的な空気の匂いがした。しかも、カラカラに乾燥している。それでも、与圧服を着けたままヘルメットの中で呼吸するよりは、はるかにいい。 「一時間もたてば、湿度が上がってくるから、今よりは快適になるはずよ」 「農場の空気がいかにおいしいかが改めて実感できるよ」  ケイとジェニファーは、与圧服から早く解放されようと、話しながらどんどん服を脱いでいった。  ケイが与圧服のインナーを脱ぎ終えた時、ジェニファーをふと見ると、インナーを脱ぎ捨て、パンティー一枚になっていた。 「ジェニファー」  ケイは反射的に目をそらせた。 「早くシャワーを浴びたいわ。湿度も上がるしね。ケイもそうしたら」  ジェニファーは言いながら、持って来たバックパックを開け、ソニック・シャワーの準備をせっせと始めた。ケイは鼻歌交じりで動き回るジェニファーから目を離すのに苦労した。しかし、彼女はそんなことにはお構いなく、シャワーの組み立てに集中している。  収納式のシャワーは、完成すると、大きい寝袋のように見えた。バッグの正面にジッパーがあり、表面には、小さな穴が無数に空いていた。この中に人が入って、立ったまま、あるいは座ったままシャワーを浴びる。ジェニファーは、下部から伸びているコードを、エアロック近くのコンセントにつないだ。寝袋全体が一瞬ブルブルと震えた。 「水ある?」  ケイはステンレス製のボトルをジェニファーに手渡した。ジェニファーはそれをシャワーのちょうど胸の辺りにある給水口から、二百㏄ほどを注ぎ込んだ。待ちきれない様子で彼女はパンティーを脱ぎ捨て、さっさと寝袋に入り、中からジッパーを上げた。中に人間が入ると、蓑虫のように見えた。 「ケイ、早く、早くスイッチを入れて」  ふざけたジェニファーは、おもちゃ売り場で駄々をこねる子供のように足踏みをした。とてもうれしそうだ。 「スイッチ? どこにあるんだい」 「そこよ、足元にあるでしょう。緑色のスイッチ」  スイッチを入れてやると、寝袋全体がバイブレーターのように震えだした。同時に表面の小さな穴から、水蒸気が漏れ始めた。 「あー、気持ちいい」  すぐにジェニファーは目をつむった。 「アダムに感謝するわ。彼は本物の天才よ」  確かにソニック・シャワーは優れものだった。ジェニファーのあと、ケイも早速利用してみた。適度に温められた水蒸気が、超音波とともに皮膚をなでる快感は、これまで味わったことがない感覚で、一言で表現すると、かなり心地良かった。 「本当に凄い」  ケイはシャワーを終え、正面のジッパーを下げながら言った。 「そうでしょう。私にとっては、キャンプ生活の最大の楽しみがこれなの。旅をする時は、必ずこれをアダムから借りて行くのよ」  ジェニファーはそう言ってキスをしてきた。彼女はシャワーのあと、何も身に着けないまま、ケイがシャワーを楽しんでいる様子を眺めていた。シャワーの間中、体の中心が熱く、硬くなっていくのを抑えることができなかった。 「もうこんなになってる」  彼女の手が下腹部に延びてきた。 「ジェニファーがそんな格好のままでいるからじゃないか」  ジェニファーは「ふん」と鼻で笑い、再びケイの唇を強く吸った。ケイは背中に回した腕に力を込めた。 「不謹慎だけど、コロニーを出てからずっとこうしたかったの」  ジェニファーは激しいキスの合間に言った。 「俺も同じだよ」  再び彼女を強く抱きしめた。
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