3.サラ・ブレ博士

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「コロニーには私の他にもギターやピアノ、リズム楽器を演奏できる人がいます。今はまだ楽器の数が少ないですが、いつの日が小さなオーケストラを作ってみたいと思っています。個人的には、コロニーを維持、発展させることと同じくらい、アンサンブルを結成することを夢みています。その日に備えて、三年前から作曲もしています」 「それは素晴らしい。ぜひ一曲聴かせていただけませんか」  サラの誘い水に、ケイは思わずシナリオにないリクエストをしてしまった。しかし、放送時間のことを考え、こうつけ加えるのを忘れなかった。「ワンフレーズでも結構ですので…」  サラは目を細め、ヴァイオリンを左肩に載せた。 「それでは、まだ完全に出来上がっていないのですが、『青い夕焼け』というオリジナル曲を弾いてみます」  サラがおもむろに立ち上がった。慌てて手元のリモコンを操作し、サラがアップになるように、カメラのアングルを調整した。サラは軽く息を吸い込んだあと、右手で弓をゆっくりと引いた。透明感のある音が、殺風景な公会堂を満たした。金属性の内壁なのに、不思議にキンキンした感じがない。恐らく気圧が地球より低めに設定されているからだろう。  サラの奏でた音は、繊細だが存在感があった。クラシック音楽には素人同然のケイにも、腕前の確かさはすぐに分かった。サラは軽く目をつむり、指先に神経を集中させ、弦をなでるように弓を上下させていった。その都度、ある意味で予想通りの、また別の意味では予想をくつがえす素晴らしい旋律が生まれ出てきた。清々しい感じのするメジャーの曲だった。 「素敵な曲ですね。著作権登録して配信することをお勧めします。きっとヒットしますよ」  ケイは素直にいい曲だと感じた。地球を出てから半年余り、生の音楽を聴いたのは初めてだった。デジタル処理された音源とは伝わる深さが全然違った。音の一粒一粒に人間の息遣いが感じられた。
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