31.予兆

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「もし惑星規模の砂嵐なら、キャメルとバギーの機能を合体させて、ノロノロとでも前に進むことになるでしょうね」 「合体させる?」 「そう。バギーのエネルギーと水を全部キャメルに移して、電気で走るのよ。エンジンは吸気系が耐えられないかもしれない。燃料電池もバックアップ用に移した方がいいわ」 「バギーは見捨てるのか」 「仕方ないわね。六人が生き残るにはそれしか手がないわ。今はバギーの方が遥かに速いけど、後半の登坂ルートだとキャメルが有利よ。二台で行くと、酸素や水素のロスも多い。置いていくとしたらこの車になるわ。荷物も積めないし」  ジェニファーはコンピューターの液晶画面を指で弾いて、眉間にしわを寄せた。 「まずいわね。嵐の中心気圧がどんどん下がってる。急速に発達しているわ。範囲は直径二百八十㌔。多分、中心部の最大風速は百二十㍍は超えているわね」 「どのくらいでここまで来るかな」  ケイは思わずアクセルを強く踏み込んだ。スピードメーターは九十㌔を超えた。 「そうね…」  彼女はタッチパッドを操作して、何かの計算を始めた。素早い指の動きは優雅で美しかった。計算は複雑なのだろうが、ものの一分程度で終わった。 「三日後くらいかしら。最も早い場合はね。今の発達速度のままでも、一週間後には到達するわ」 「その前に少しでも距離を稼がなきゃ」 「そうね。砂嵐に覆われたら、細かい砂粒にやられてしまうから、精密機械の移動は難しくなる。決断はその前ね」
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