31.予兆

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「さあ、ようやく合流はできたが、問題はこれからだ。ジェニファー、どう考える?」  真顔になったピカールが質問した。全員の顔から笑みが消えた。ジェニファーはしっかりとした口調で話し始めた。 「嵐の拡大パターンをみると、二年前のよりは弱い気がする。でも、惑星規模に発達するのは、間違いないのでは」 「やはりな。的場もそう見ている。俺もそう思う。最悪の事態を想定して準備した方がいいだろうな」  ピカールはバギーの方に歩きだした。細かい砂の付着したオフロード用タイヤをなで回しながら、「こいつは置いて行こう。やむをえない」とつぶやいた。五人は黙って、バギーに歩み寄り、いとおしむようにタイヤやボディに触れた。 「コロニーと一応連絡を取ってみる。だが、ブレ博士の結論も我々と同じだろう」  そう言ってピカールは、胸の辺りのスイッチを操作して、無線周波数を変えた。 「マーズ・フロンティア・コントロール、こちらキャメル、応答願います」  数秒の間のあと、ブレ博士の声がした。 「ピカールか。こちらコントロール、どうぞ」 「バギーと合流しました。キャメル、バギーともに機能的には何ら問題ありません」 「了解。クルーの状態は?」 「全員元気そのものです。火星を一周できるくらいです。約一時間後には出発します」 「カールは順調に飛行している。一時間後に再突入する。ところで、砂嵐の件だが、そちらでも情報を取っているとは思うが、規模の拡大が止まらない。このペースだと、一週間で惑星全体に発達するだろう」 「了解。最悪の場合、バギーを放棄して、キャメルのみでオリンポスに向かおうと考えています」 「それしかないだろうな。走行できなくなるまでに、少なくとも五、六日はある。適当な場所を見つけて、バギーを格納して欲しい」 「ここから二百㌔くらい進んだ場所に、小さな渓谷が連続する地域があります。アマゾニス平原の最も低い部分です。そこにはいくつかの洞窟があります。バギーはそこに格納しておきたいと思います」 「補給ポイントまでは辿り着けないな」  ブレ博士の一言に、ピカールは一瞬表情を曇らせた。 「遠回りになりますし、せめてあと一週間の猶予があれば…。でも、もともと補給なしでも可能なプランを立てています。今あるもので何とかオリンポスに着いてみせます」 「分かった」  全員が息を潜めるようにして、ピカールとブレの無線通話を聞いている。 「的場が今、気象監視衛星の軌道を君たちの真上を通過するように調整している。十六時間後には完了する。GPSの機器類は順調に作動しているかね」 「ともに順調です。バギーのGPS装置も、予備として持っていきます。これがなくては、砂嵐の中は進めませんからね。念には念を入れます」 「それがいい。嵐の接近までにはまだ時間がある。その間、できるだけ距離を稼いで、準備を万全にしておいてくれ」 「了解」
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