32.雷鳴

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32.雷鳴

 翌朝は夜明けと同時に出発することになっていた。窮屈な車内泊だったが、二台が合流できたことに少し安心したのか、ケイは六時間以上熟睡することができた。 「ケイ、ジェニファー。それじゃ、そろそろ出発しようか。バギーの駐車場は遠い」  ピカールが無線を入れてきた。キャメルのキャビンを見ると、こちらを見ながら手を振っていた。ケイはインカムに向かって言った。 「了解。今日も飛ばしますよ。ついて来てください」 「無茶言うなよ。そっちこそ、あんまり飛ばし過ぎて、ひっくり返るなよ」  ケイはキャメルに向かって、親指を立てて見せた。  ビークルは今、マーズ・フロンティアとオリンポスの中間地点辺りにいる。かつて海の底だったアマゾニス平原にとっては、標高の最も低い地点。ここを過ぎた辺りから、登り傾斜とともに地形は徐々に荒々しくなってくる。大小さまざまな地溝や断層、丘陵が増えてくるので、走行距離の割には前へ進めなくなる。黄色っぽい色をしていた単調な砂の大地も、酸化鉄を主体とした岩が増え、赤の色調をより強めていくはずだ。  二台のビークルが、東西二㌔以上に及ぶ地溝帯に辿り着いたのは、その日の夕方に近かった。眼前では、赤い大地がざっくりと裂け、不気味に口を開けていた。 「ここはかつての海溝の一つだ。得てして、こういう場所には洞窟が多数ある。その中の適当な所に、バギーを収納しよう」  ジョルジュ・ピカールが無線で伝えてきた。 「荒れた場所はキャメルのお得意だ。俺とバーグマンが行ってくる。キムとスチュワートはバギーに残っていてくれ」  ピカールがキャメルのキャビンのドアを開けた。与圧服姿のキム・デヒョンとスチュワート・マクグレイスが梯子を降りてきた。  数分後、ピカールとペーター・バーグマンを乗せたキャメルは、数十㍍の深さがある地溝に下りていった。
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