32.雷鳴

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「バギーの中は相変わらず狭いなあ。ペーターが残らなくて良かったよ」  後部座席でキャメルの行方を見送っていたスチュワートがつぶやいた。ペーター・バーグマンは身長が二㍍余りの大男だ。 「でも、キャメルに六人が乗ったら、かなり厳しいぞ。夜は大変だ」  キムがスチュワートの隣で相槌を打った。 「フロンティアを出発してから、全て車中泊だったのかい」  ケイが聞いた。 「六人乗りのところに四人しか乗ってないから、余裕だったよ。寝る時は、運転席と助手席に一人ずつ、二列目と三列目に一人ずつ。横になって寝られる後ろの二人が次の日の運転手とナビゲーターを務めるというローテーションさ」  マクグレイスはうんざりしたような口調で答えた。キムも渋面で相槌を打った。ケイとジェニファーはハブを使ってしまったことを黙ったまま、神妙な表情で話を聞いた。 「でも、六人乗ると、横になって休めなくなるだろうな」  ケイが言うと、ジェニファーがすかさず口を挟んだ。 「大丈夫。二列目と三列目の床があるわよ。私とキムは小柄だから、充分床で横になれるわ。それでもシートに座りながら寝るよりはマシよ」  ジェニファーを除く全員がため息交じりに苦笑した。  車高を上げ、オフロード走行の姿勢になったキャメルは、およそ一時間後、地溝の縁から再び姿を現した。操縦していたのは、バーグマンだった。バギーの操縦席に座っていたケイが、キャメルの姿を認めたのとほぼ同時に無線が入った。 「ここから一㌔ほど東に向かった先に、バギーがすっぽり入る洞窟を発見した。今からなら日没までに収容できる。すぐに出発するぞ」  ピカールの声は元気そのものだった。火星コロニーのメンバーは、ほぼ例外なく、重要な任務遂行中に信じられないほどのバイタリティと集中力を発揮する。 「了解。後についていくので誘導願います」  ケイはそう返答しながら、バギーのエンジンを始動した。その音と振動で、転寝をしていた三人が目を覚ました。 「一㌔くらい走った所に、駐車場があるらしい」  ブレーキをリリースして、ケイはバギーを前に進めた。
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