32.雷鳴

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 二台のビークルに分かれて休んだ六人は翌朝早く、ブレ博士からの無線で目を覚ました。 「マーズ・フロンティア・コントロールから地上班。おはよう」  ブレ博士の声はいつものように元気そうだった。こっちはリーダーのピカールが応答した。 「こちらキャメルです、どうぞ」 「そちらの様子はどうだ?」 「目的の渓谷に到着し、バギーの収容場所を確保しました。かなり厳しい経路でしたが、バギーはケイがここまで下ろしました。敬意を表して、この渓谷を『コバヤシ谷』と呼ぶことにしました」 「了解した。こちらの方からは、まずはいいニュースだ。クリフォードが快方に向かっている。造血幹細胞輸血後の経過がとても良い。彼の生命力にはドクターも驚いているよ。あと二、三日もすれば、ベッドから出られそうだ。骨髄移植はその後、体調の回復をみてからになるそうだ。シェーファーはひどく疲労しているが、放射線の影響は思ったより軽かった。いいニュースがもう一つ。オリンポス班から連絡があって、ハブの起動に成功したそうだ。四人は快適にハブで過ごしているよ。君たちには申し訳ないが…」  後部座席でキムが舌打ちした。 「やっぱり地上班は貧乏くじだったか」  ケイとジェニファーは苦笑した。 「次は悪いニュースだ。十時間ほど前に気象監視衛星の軌道修正を完了した。君たちの進む経路を終日モニターできるようにした。その画像とデータは常時ダウンロード可能だ。見てもらえば分かると思うが、砂嵐の前面に雷雲が発達している。それもかなり強力な奴だ。谷にいるのなら、雷雲をやり過ごすまで、その場を動かない方がいいだろう」 「今、データをダウンロードしています」  バギーにいたジェニファーが無線に割って入った。地質学者のジェニファーは、気象学にも詳しい。手元のコンピューターの画面には、ほどなく衛星写真と気圧配置図を重ね合わせた画像が写しだされた。 「うーん、確かにまずい状況ですね。この発達具合だと、相当激しい雷でしょう。でも、範囲は広くないようです。数日で雷雲はやり過ごせるかもしれません。出発はそれからですね」 「フロンティアも今、対策に追われている。メタンや水素のタンクが直撃を食らったら大変だ。ここには守るべき施設がたくさんある。恐らく、君たちが雷雲の中に入ったら、無線連絡も滞るだろう。出発の判断は君たちに任せる。計算だと、砂嵐が『コバヤシ谷』に到達するまで、あと二十六時間だ。対策は万全にな」
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