3.サラ・ブレ博士

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「発電所にトラブルが発生することはないのですか」 「相手は機械です。しかもかなり複雑でデリケートな装置です。トラブルは日常茶飯事とも言えますが、この十年の経験で、適切に対処する方法を学びました。ユージンが話した通り、水と酸素の備蓄が十分にあるので、修理の時間をたっぷり取る余裕もできました」 「新たな発電方法を試す計画がありますか」 「火星大気中の重水素を使用する手法も検討に値しますが、量が余りにもわずかです。火星の衛星・フォボスのレゴリスには相当量のヘリウム3が含有されていますので、火星で新たな核融合炉を動かすとすれば、フォボス上で試すのが現実的ではないでしょうか。マイクロ波かレーザーで地上に送電する仕組みが作れれば、火星上の大半の場所に、電力の心配をせずにコロニーを建設することができます。コロニーの数が増え、火星の人口が今よりもっと増えたら、真剣に検討すべきでしょうね」 「現状の発電量はどのくらいの人口を支えるのに十分でしょうか」 「ケイもご存知の通り、次のエンタープライズで新たな入植者が四人到着します。地球に帰るのは二人の予定ですから、人口は二人増えますね。計画だと、今後十年以内に、火星人口は倍増することになっています。でも、心配はありません。今のままの能力だとしても、現在の三倍の人口を支えることができます。新たに届く資材で設備を充実させれば、その上限をさらに増やすことが可能になりますね」 「では、火星人口が百人を超す時代も間近ということになりますね」 「インフラとしては可能です。ただ、問題は食料です。倍に増えるなら、農業用のドームをあと二つか三つは建設しなければならないでしょう」  話が弾んでインタビューの時間が長引いてしまった。録画開始から二十九分五十秒。これ以上尺が長くなると、編集が大変だ。 「まだまだお話を伺いたいところですが、アダム君にもお話を聞かなければなりませんので…。続きは次回ということで」
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