32.雷鳴

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 地上班はこの日、二班に分かれて、砂嵐対策に当たった。バギーのケイとジェニファー、キム、それとマクグレイスは、バギーからキャメルに移動させる機器の取り外しを担当し、ピカールとバーグマンはキャメルの荷台を整理して、バギーから移す貨物の積載場所を確保していた。 「何だい、この道具は?」  ソニック・シャワーの入ったバックパックを手にしたマクグレイスが言った。 「ソニック・シャワーよ」  ジェニファーは素っ気なく答えた。 「アダムが作ったという優れものかい? 随分軽いな」 「そう。火星で発明された機械のうち、優秀作ベスト3に入ると思うわ。一度使ったらやめられないわよ。コロニーのハブについているシャワーより、ずっと気持ちいいわ」 「これも持っていくのかい」 「当たり前。レディーのたしなみよ」  マクグレイスは大声で笑った。  バギーから機器類を下す準備があらかた終わったのは、正午過ぎだった。 「砂嵐の中での積み替えは避けたい。今のうちに移しておこう」  六人は休む間もなく、たっぷり二時間以上をかけて、バギーの液化メタンタンクや小型燃料電池、バッテリーなどをキャメルに積み込んだ。火星がいくら低重力だとは言え、燃料電池や生命維持装置のユニットや高圧タンクを運ぶのは、なかなかの力仕事だった。移動するものは金属の部品が多いので、引っかけて与圧服が破れると大変な事態になる。慎重の上にも慎重に作業した。 「久々に力仕事をした感じがするなあ」  貨物を全て移し終えたのは、もうその日の夕方近かった。全員が地面に腰を下ろして一息ついている中、ジョルジュ・ピカールが言った。 「コロニーを出発してから、エクササイズを休んでいたから、ちょうどいい筋力トレーニングになったんじゃない?」  ジェニファーがひやかした。しかし、彼女の額の辺りにも、薄っすらと汗が浮かんでいるのが、シールド越しに分かった。  ケイは、最後に自分の取材道具が詰まったケースとアダム・ブレに借りたソーラー発電装置をキャメルのキャビンに積み込んだ。 「たいした仕事量じゃないのに、すごく体を使った気がする。体がなまったからなのかな」  ケイは微かに膝や肩の関節に痛みを感じた。この程度の運動で筋肉や関節が悲鳴を上げるなど、以前は考えられなかったことだ。コロニーを出発してから、一週間しか経っていないのに、もう低重力の影響がでたのだろうか。 「筋力トレーニングの重要性を再認識したよ」 「でも、もっと驚くのは心肺機能よ。オリンポスに着く頃には、バスケットボールの一クオーターももたなくなっているから」  ジェニファーがケイの与圧服の胸の辺りを叩いた。
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