32.雷鳴

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「そんなことが…」 「狭いビークルの中にじっとしているでしょう。特に、心臓の機能は格段に低下するわ」 「その通りだ」  会話に割って入ったのはピカールだ。 「心肺機能の低下と少し関連あるが、長いビークル暮らしで、気を付けなくてはならないが肺血栓だ。これは健康である、なしに関わらず、誰もが注意すべきだ。各自、きちんと薬を服用するように。忘れるなよ」  コロニー出発直前に、何種類かの薬剤をドクターから受け取ったのを思い出した。その中に、確か血栓の予防剤もあった。 「ハブを膨らませよう。何日になるか分からんが、ここでしばらく籠城しなければならない」  出し抜けにピカールが言った。何人かが口笛を鳴らすのが無線から聞こえた。 「酸素は使わないぞ。与圧するだけだ」 「それでも、車の中よりは遥かにマシですよ」  スチュワート・マクグレイスが言った。  コロニーを出てから、初めてハブを使ったキャメル組の四人は、ハブに入ると、すぐに上半身だけ与圧服を脱ぎ、横になった。一週間余り、脚を思い切り伸ばしたことがなかったのだろう。盛んに膝を屈伸し、ふくらはぎや足首をマッサージしている。酸素マスクを付けているが、リラックスしているのは明らかだった。ケイはジェニファーと過ごした贅沢な夜を思い出し、少し申し訳ない気持ちになった。  ジェニファーが持ってきたソニック・シャワーはここでも大人気だった。全員がシャワーを浴び、口々に発明者のアダムに感謝の言葉を述べた。夕食はチューブではなく、中華風ヌードルや野菜スープのレトルトパックだった。可もなく、不可もなくというような味わいだったが、六人で一緒に食べると、チューブ食よりは満足が得られた。
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