33.赤い嵐

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 丸一日を経過しても、外の状態は相変わらずだった。アンテナを片付けたので、コロニーとの無線連絡もできず、気象監視衛星からの信号も受信できなくなった。ハブの六人は、目と耳を奪われ、外界から隔絶されてもぐらのように洞窟の中でただじっとしていた。 「不思議だな」  ケイの独り言に、ジェニファーが反応した。 「え、何が」 「だって、こんなひどい砂嵐に遭って、雷が鳴り続いている。いつ出発できるのか分からない。手持ちの水素や酸素はどんどん減っていく。どう贔屓目にみても、状況は悪くなる一方なのに、みんなは全く焦っていないように見える」  ジェニファーは少し考え込むようなしぐさをした。 「多分、これと似たような危険な状況を何度も経験しているからじゃない」 「危険は、何度経験しても慣れるものじゃない」 「慣れることはできなくても、耐える方法は学べる。不安なのはみんな一緒よ。ただ、それをコントロールする術を知っているだけ。だって、焦ってもしょうがないでしょう。こんな雷には、どんなことをしても勝てっこないわよ」  ジェニファーの言葉に合わせるように、大きな一撃が洞窟の近くに落ちた。洞窟の入口に小石が幾つも落ちてきた。ケイは丸一日以上も続いている雷鳴に、少しナーバスになっていた。しかし、ほかの五人は、雷が至近距離を直撃しても、もうほとんど驚かなくなっていた。火星住人の精神的なタフさに、ケイは改めて感心した。  二日目も雷鳴は止むどころか、ますます激しさを増した。避雷針への落雷回数は一日で十二回に上った。洞窟の近くに落ちることも度々で、入口には、落雷に伴う落石で小山ができていた。このままだと、入口が塞がってしまうかもしれない。だが、ハブの中では相変わらず、誰も口もきかずに、じっと横になり、雷鳴に身を任せていた。
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