33.赤い嵐

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「大して役には立たないかもしれないが…」  みんなが笑いを収める前に、ピカールが口を開いた。 「まだ実用レベルではないが、この厳しい状況を抜け出すのを少しは助けてくれるかもしれないグッズがあるんだが」 「あれを試すのですか?」  バーグマンが前を凝視しながら言った。 「そうだ」 「走行しながら使うと壊れてしまう可能性もあるのでは…」 「使えないなら、いっそのこと壊れてしまった方がいい。機械部分だけでも数十㌔はある。駄目なら捨てていく。その分、車を軽くできる」 「それじゃ、起動してみますか。一旦ビークルを停車させます」  たいしてスピードのでていなかったビークルは、すぐに完全停止した。サイドブレーキをかけたバーグマンは、すぐにコンソールの端にある目立たないスイッチを入れた。すると、後部荷台の方から歯車が回る音が聞こえ、金属のアームが二本、真っ直ぐに伸び始めた。 「これって、もしかして、クリフォードが実験中だった奴?」  首を後ろに回して、アームの伸び具合を見ていたジェニファーがピカールに訊いた。 「そうだ。風力発電装置さ」  直径十㌢ほどの金属アームはキャビンと同じくらいの高さまで伸びきった後、先端部がゆっくりと開き、中からクリスマス・プレゼントの包み紙に貼り付けるリボンを大きくしたような構造の風車が現れた。 「あの風車が特別なんでしょう」 「よく知ってるね。火星大気の弱々しい力でも回るように工夫した結果が、あの形状さ。リボンの材質は超薄膜のポリエチレン、全て火星産だ。設計上は風速八十㍍前後で安定して発電する。今の風速は九十五㌔だ。ビークルが走れば、もっと強い力が得られる」 「発電能力は?」 「最大で一㌔㍗。一日しっかり回れば、生命維持装置を一時間動かすくらいの電力にはなる。ほんの少しだが助けにはなる」 「心強いわ。冗談抜きに。その分の水素をメタン製造に回すことができるわ。こんないいものを隠していたなんて。愚痴る必要なんてなかったじゃない?」  アームが伸びきった時点で、リボン型の風車は、ゆっくりと回り始め、徐々にスピードを上げた。 「慎重にギアをつなげよ。デリケートな代物なんだ」
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