33.赤い嵐

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 ピカールが静かに言った。バーグマンは、風車が勢い良く回っているのを見計らって、アーム操作スイッチの横にあるつまみを「1」の数字に合わせた。後部荷台でギアの繋がる鈍い音がした。 「発電機なんて積んであったっけ?」  ケイの質問には、ピカールが答えた。 「発電機と言っても、大きさは五十㌢四方の小さな箱だ。重さは十㌔もない。子供もおもちゃみたいなものさ。荷物の底の方にこっそり忍ばせてあったんだ」 「でも、そのおもちゃ箱が凄いんでしょう」  ジェニファーが言った。ピカールは少し自慢げに説明を続けた。 「風車が受けるのはわずかな風圧だ。その風から得られるわずかな回転力で歯車を回して、発電しようというんだ。超軽量の歯車を何十個も組み合わせて作ったらしい。初めて見た時は、メカ好きの道楽だと思っていたが、こんな形で役に立つとはな…」 「アダムも一枚噛んでいそうね」 「細かい部品の組み立ては、小さな手を持つ子供の方が得意だ。全体の設計はクリフォードがやったが、製作は二人の共同作業みたいだぞ」 「順調に回っているようね。バーグマン、発電している?」  コンソールに目を落としたバーグマンは、弱々しく首を振った。 「まだ電圧が足りない。発電しているが、安定していない。バッテリーに充電するほどではないよ」  六人はその時、かなり落胆したが、キャメルの速度が時速二十五㌔を超えた辺りから、電圧が安定し、ビークルのバッテリーと同調し始めた。バーグマンはつまみの数字を「2」に合わせた。 「いけそうだ。〇・七㌔㍗で安定して発電している。バッテリーの針もほんの少しだが、上がり始めたぞ」  バーグマンがそう宣言したのは、風車が回り始めてから三十分ほど経ってからだった。 「なるべく速度を一定に保って走ってくれ。三十㌔をキープできれば最高だ」  ピカールはほっとした表情で言った。
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