34.選択のとき

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 ケイはいろいろなことを言いたかったが、頭がうまく働かず、言葉が出てこなかった。他のみんなも同じ状態のようで、彼女の提案に賛意も反論も出てこない。 「行くのは、ピカールとバーグマンの二人よ。一日でも早くオリンポスに辿り着いて、すぐに水素と酸素をたっぷり積み込んで、助けに来て」  ピカールは黙って頷いた。  だが、バーグマンは「誰か別の人間が行った方がいい。俺は体調が悪すぎる。足手まといになる」と力なく言った。 「何を言っているの」  ジェニファーの怒鳴り声で、ケイは平手打ちを食らったように顔を上げた。横になっていたバーグマンは身動きもせずに、じっとジェニファーを見上げていた。 「オリンポスにある新型ビークルを組み立てて、走れるようにできるのは、ペーターしかいないのよ。嵐の中に残る四人を救出するには、二台のビークルがどうしても要るの。この任務を果たせるのは、あなたしかいないのよ。今すぐ、マディソンに連絡して、ビークルの組み立て準備を進めてもらって」 バーグマンはじっとジェニファーを見つめた。そして、おもむろに口を開いた。 「分かった。全力を尽くすよ」  死にかけていたバーグマンの瞳に再び生命が灯ったようだった。 「頼むわよ。私だって、こんなところで死ぬ気は全然ないんだから」  ジェニファーは笑った。こんな状況で笑顔が出せることに、ケイは心底驚いた。 「ところで、オリンポスにいるアンドレッティって、ビークルの操縦がかなり上手いらしいわよ。新しいビークルがどんなタイプが分からないけど、使える車だったら、迎えはかなり早いと思うけど」 「新しいのは、バギーとラボ・カーの中間だと聞いているが…。車高調整機能もあるらしい」 バーグマンが言った。 「組み立てには時間がかかるの?」 「部品を一から組み立てる訳じゃない。エンジンやドライブシャフト、燃料タンクなんかの主要な部分は、車体にマウント済みだ。本当に難しいのは、エンジンやメタン製造装置、燃料電池を配線して、きちんと動くように調整することなんだ。組み立てに俺が必要だってマディソンが言ったのは、そういう調整作業のことさ。必要な装置を設計図通りの場所にマウントするだけなら、アンドレッティでも充分にこなせる。それはもう終わっているだろう」 「私もそんな気がする。マディソンはきっとこの作戦を想定して、準備していると思うわ」 「だとすれば、調整には二日もかからない」
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