34.選択のとき

4/6

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/295ページ
「となると、水素や酸素はどのくらい必要になる」  ピカールが聞いた。バーグマンはすぐにコンピューターを起動し、タッチパネルを叩きながら計算し始めた。 「残るのは四人。一人当たりの酸素の消費量を一日一㌔㌘、水を四㍑として、十四日間だと…」  ケイはコンピューターを操るバーグマンの手元から目を離すことができなかった。まるで、自分たちの生存確率を計算されているような気分がした。やがて、せわしなく動くバーグマンの指はピタリと止まり、大きなため息を尽いた。 「メタンに換算すると三百㍑は要る。水や酸素はメタンから取るしかない」 「残りの三分の二じゃないか。キャメルにはどのくらいが必要なんだ」  ピカールの口調は少しいらだった。 「キャメルの乗員は二人なので、生命維持には百もあれば充分だ。しかし、オリンポスまでの走行に最低百五十はみておいた方がいいだろう。どう考えても百は足りない。どうする、歩いていくか?」  バーグマンはジョークのつもりだったのかもしれないが、場にそぐわないのは明らかだった。六人は再び押し黙った。  長い沈黙のあと、口を開いたのは、リーダーのピカールだった。「六人全員は助からないかもしれない。だが、ジェニファーが言ったように、全滅を防ぐには、この方法しかないのも確かだ」  ピカールのひと言から、堰を切ったように、メンバーが発言を始めた。 「残る四人が生き残れる確率は低いが、ゼロじゃない。たとえ失敗しても、二人とキャメルはオリンポスに辿り着ける。それが最善の策だ。疑問の余地はない」  スチュワート・マクグレイスは、普段の陽気な話しぶりとは違って、神妙な口調で言った。続いて、普段は無口なキム・デヒョンが珍しく興奮したように話し始めた。 「僕もそう思う。でも、行くのはピカールとペーターでいいのかな。我々が助かるためにはペーターが行って新しいビークルを組み立ててもらう必要があるが、スチュワートが行かなけりゃ、核融合装置は起動できないんだろう。もし、スチュワートがここに残って、その救出が間に合わなければ、発電所を起動できなくなる。任務の重要性からいくと、行くメンバーはペーターとスチュワートということになるんじゃないのか。リーダーのピカールが行くのがいいのは分かっているんだけど…」  キムの提案には、一理があった。六人は再び考え込んだ。だが、今度の沈黙は短かった。ピカールははっきりとした口調で言い切った。
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加