35.オリンポスの戦い

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 新しいビークルは、六輪のオフローダーで、スピード重視のバギーと悪路に強いキャメルの中間的な性能を持っていた。エンジンはメタンと電気モーターのハイブリッドだが、キャメルより二五%もトルクをアップさせている。  全長、車幅が広く、上から見ると表面積が広いのが外観上の特徴だ。これは、広い表面を埋め尽くすように貼り付けた高性能の太陽電池の発電能力を引き出すための意図的な設計だった。定員は六人。しかし、それだけの人数が乗ることを主目的に造られてはいない。むしろ乗員二人で使うことを想定して造られたと言って良い。  座席を前部の二つしか使用しないと、キャビン後方に小さな簡易ハブ程度の空間ができるように設計されている。オリンポスでは、金属鉱床の探索などで小旅行をする機会が格段に多くなるので、ハブを使わずに生活が完結できるように配慮したのだ。  このスペースには収納式のエア・ベッドや、ソニック・シャワー、トイレなどが装備可能だった。これが今までのマーズ・ビークルになかった新しい機能だ。主に使用するのはジェニファーになるだろう。アンドレッティはタンクという名称が決まるまで、「ジェニファーのキャンピングカー」と呼んでいた。 「ジェニファーがタンクに乗って出動か…。なかなか面白いジョークだな」  マディソンが言った。アンドレッティは少し困ったような表情をしながら、「この名前じゃ、ジェニファーは気に入らないかな」と笑った。 「もしかしたらぶん殴られるかもしれないぞ。『そんなダサイ名前は嫌だ』ってな」 「でも、みんなが無事にこのコロニーに着くのなら、一、二発は殴られてもいいや」
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