37.送電停止

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37.送電停止

 ケイたちがキャンプ地に向かって、砂嵐の中を彷徨していた頃、マーズ・フロンティアは深刻な危機に陥っていた。  嵐の前兆の雷雲が通り過ぎた後、コロニーの生命線とも言える核融合発電所からの送電が途絶えたのだ。電気が届かないと、酸素や水を作り出すことができなくなる。呼吸で生じた二酸化炭素も処理できない。熱源も失われるので、コロニーはたちまち火星表面と同じ極寒の世界になってしまった。  電力が不安定になったので、酸素や水素をコロニー近くの貯蔵場所から供給するシステムもストップした。都市ガスが止まったような状況だが、送られてくるのは単なるガスではない。生命維持に欠かせない酸素や水素なのだ。今はハブに貯めてあった水を分解して、水素や酸素を生成し、燃料電池を回してしのいでいるが、このストックも無限にある訳ではない。 「まず、電力を回復しなければならない。故障箇所はほぼ特定できたが、修理するためには、核融合装置を完全に止める必要がある。修理に要する時間と再起動までにはかなりの時間がかかる。一刻も早く着手しなければならない。今から一時間後に、コロニーの電力供給を独立系の予備システムに切り替える」  ユージン・ブレ博士は、公会堂に集まった約二十人を前に、現状を説明していた。 「この嵐の中、太陽電池はほとんど役に立たない。燃料電池だけだと生命維持関係の装置を動かすのがやっとだ。やむを得ないが、修理完了までハブの使用を一時的に禁止する。しばらくの間は公会堂での生活になる。水と食料の備蓄は充分にあるので、心配しないでいい」 「ユージン」 手を挙げたのは、農場責任者のペドロ・クリベーラだ。 「電力ストップは農場も例外ではないのですか」  ブレ博士はペドロに視線を向け、悲しそうな表情をした。 「すまん。緊急事態なんだ。農場に回す電力はない。あそこは大量の電気を食う」
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