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クリベーラは、肩を落とした。空気組成や湿度、温度を、高いレベルで制御しているのが農場だ。それらを支える複雑な機器が一時的にでも停止してしまったら、作物の全滅は不可避だ。
「仕方ありません」
ぺドロは沈痛な表情をして言った。
「しかし、『命の木』だけは助けたかったですね」
「それには方法がある」
声を上げたのは的場誠一郎だった。
「農場は、エアドームだ。長期間機能停止すると、ドームの構造が崩壊する危険がある。内部の気圧だけは保たねばならん。そのために、一日に数回は空気をドーム内に送り込む。野菜や果物を全部救うのは無理だが、うまくやれば、『命の木』を助けるくらいの酸素は送り込めるはずだ。あとは、どうやって、その酸素を木の周辺に維持するかだ」
「それなら『命の木』自体を小さなドームで覆ってやれば良い。簡易ハブを改造すれば、可能です」
クリベーラの瞳が輝いた。
「一時間でできるか」
ブレ博士が聞いた。
「当然やりますよ。あの木だけは死なせたくない」
クリベーラはすぐに立ち上がった。「手の空いている人は手伝ってほしい。収穫可能な作物は今のうちに保存しておきたい。植物プランクトンも容器に移しておきたいな」
数人が手を挙げ、ペドロに従って農場へと急いだ。
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