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ブレ博士は、ペドロたちが公会堂を出てすぐに、説明を再開した。
「マイクロ波の伝送装置は、落雷で壊滅的な打撃を受けた。アンテナの幾つかが直撃を受けたようだ。部品が足りず、早期の復旧は望めない。そこで、取りあえず、スーパーグリッド伝送路の修理を急ぐ。幾つかの中継ポイントが落雷で吹っ飛んでいるので、それを直した後、液体水素を再注入する。作業には二、三日はかかるだろう」
スーパーグリッドは、極低温の液体水素を満たした送電管だ。送電効率は超伝導並みで九八%を超す。この伝送路の優れた点は、効率良く電気を伝えることだけではない。発電所からコロニーまでの三系統、総延長三十数㌔に及ぶ送電管自体が、水素貯蔵のインフラにもなっているのだ。しかし、今回の落雷では、これが裏目にでた。送電管そのものは地下に埋設してあるので、水素誘爆という最悪の事態は避けられたが、液体水素の出し入れや、電圧を制御するための中継ポイントが、度重なる落雷サージで被害を受けたのだ。三系統のうち、二系統の中継器が複数やられて送電が完全ストップした。残る一系統も機能停止寸前で、送電能力は一割も残っていなかった。
「問題があります」
発言したのはドクター・フィリップスだ。
「クリフォードとシェーファーはどうしますか? 彼らにはまだ治療ベッドが必要です」
「医療室の予備電源では足りないのか。確か高出力の燃料電池が独立配置されていたはずだが」
「集中治療ベッドが一つだけなら持ちますが、二つ同時に使ったら電力が足りません。医療室の暖房を切ってもいいというなら、話は別ですが…」
ブレ博士はあごの辺りに手をやって、考え込んだ。
「何かいい案はないか」
二十人の気まずい沈黙を破ったのは、アダム・ブレだった。
「パパ、簡易ハブを使ったらいいよ。医療室全体を維持するのには、たくさんのエネルギーが必要だけど、簡易ハブだったら、少ない電気で大丈夫じゃないかな」
「その手があるか…。だが、またハブに缶詰めになるのは、気が進まないな」
「ドクター、その方法なら、対応は可能だな」
ブレ博士が念を押した。
「ハブなら、予備電源でおつりがきますよ」
「分かった。その他に問題はないか」
全員が小さく頷いた。覚悟が決まった顔をしている。
「それでは早速始めるぞ。インフラ担当班は、今すぐ公会堂の生命維持機能の強化にかかれ。酸素混合気の送出、二酸化炭素除去、湿度調整、どのシステムにも最低二つ以上のバックアップを用意すること。食料班は、コロニーのありったけの携帯食と飲料水をここに集めてくれ。農場の野菜搬出も手伝った方がいいな。これからしばらくは、食べることくらいしか楽しみがなくなる。食料だけは充分に用意する。それと、忘れてならないのは、与圧服と酸素ボンベだ。全員が自分の分を持参し、四十五分後にここに集合すること。以上だ」
公会堂の二十人は、一斉に立ち上がり、物も言わずに、コロニーのあちこちへと散らばった。
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