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アダムは少し恥ずかしそうに下を向いた。
「バスケットボールのいい選手になりそうですね」。思わず口を突いたケイのジョークも、アダムを笑わせることはできなかった。
「ところで、火星にはアダム君のほかに、二人の火星生まれの友達がいると思うんだけど」
「はい。シャルル君とキム君です」
「一緒に遊んだり、勉強したりしているのかな」
「シャルル君とはよく遊びます。今日も朝から農場のバスケットコートで遊んできました」
「シャルル君はいくつかな」
「七歳です」
「キム君とは」
「キム君はまだ二歳だから…。もうちょっと大きくなったら、一緒に遊べると思うよ」
「火星には学校がないのだけど、勉強はどうしているのかな」
「数学や英語、ロシア語は、お父さん、お母さんが教えてくれます。物理は、週に何度かだけど、的場さんが教えてくれます」
「数学はどんなことを勉強しているのかな。掛け算とかかな」
「今、面白いのは微分、積分。ちゃんと正解がでた時はうれしいよ。ロシア語はちょっと難しい。ドストエフスキーを読んでいるけど。言葉自体の意味が良く分からないです」
ケイは驚いた。アダムは九歳にして、すでに高校生並みの教育を受けている。
「物理は難しくないかい」
「相対性理論はそんなに難しくなかったけど、量子力学はちょっと…。的場さんは、ゆっくり理解すればいいって言ってくれていますけど」
「的場さんというのは、的場誠一郎博士のことですか」
ケイはブレ博士の方を見て質問した。
「そうです。的場博士は、アダムのことを自分の息子のようにかわいがってくれています。物理学の才能を見抜いてくれたのも、彼です」
的場誠一郎は、ブレ博士と同様、このコロニーの重要人物だ。宇宙物理学が専門で、火星に接近、着陸する宇宙船や火星周回衛星の管制を主に担当している。「火星の頭脳」と呼ばれている。
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