38.幸運

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38.幸運

 重い足を引きずりながら、絶望的に前進する四人の目の前に、大きな希望が現れたのは、間もなく日が沈もうかという時間帯だった。夜までに目的の渓谷に着くのは到底無理な状況で、四人は危険を承知で、平野部にハブを張ることを覚悟しながら、半ば惰性で橇を押していた。 「これは…」  数十㍍の軽い坂を登りきった四人の眼前には、突然、なだらかな下り坂が広がっていた。橇で滑り降りるのに、急過ぎず、緩やか過ぎず、絶妙の傾斜に見えた。ただ、これまでと違っていたのは、斜面の終点が赤い霧の彼方まで続いていることだ。 「一体、どこまで下っているのだろう。視程は二百㍍あるが…」  ピカールが肩で息をしながら、じっと前方に目を凝らしていた。 「偵察する必要があるね。これが何百㍍も続いているようなら、一気に前進できる」  キムがうれしそうに言った。 「じゃあ、私が偵察に行くわ。障害物がないようだったら、ゴーサインを出すから」  ジェニファーはそう言い残すと、すぐに駆け足で坂を下っていった。赤い霧の中に消えた彼女が残る三人に向けて無線を入れてきたのは、十五分後だった。 「凄いわ。私たちツイているわ。坂の下まで確認したけど、路面状況はクリアよ。坂の延長は、そうねえ、恐らく五百㍍はあると思う。その先にもまた同じような坂があるわ。この辺りはどんどん下っているのよ」  大きな下り坂は結局、四つ連続していて、合わせると二、三㌔は続いていた。四人は橇に乗って、一気に坂を滑り降りた。この区間は一時間も使わずに五㌔以上を進むことができた。 「残り二時間で九㌔弱。希望がでてきたぞ」
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