38.幸運

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 しかし、この赤い星はそれほど甘くはなかった。つい先程は、思わぬ下り坂のプレゼントで距離を稼ぐことができたが、次の一時間は、とても登りきれないような幾つかの急な丘陵を幾つか迂回しているうちに、ほとんど前進できぬままに過ぎ去った。  日は既に西の空に没し、周囲は視界がきかないほど暗くなってきた。嵐のせいでもともと薄暗かったので、宵闇はあっという間に辺りを包んでいく。四人は押し寄せる焦燥感や肉体の疲労感と戦いながら、あきらめず一歩一歩進んだが、目的地はまだ何㌔も先だった。残り時間を考え、絶望感に支配されつつあった四人は、突然、前方で信じられない光景を目撃した。 「地図になかったわ、こんな地形」  ジェニファーが脱力したように声を絞り出した。ピカールとキム、そして俺もその場にへたり込んで、眼前の風景を眺めた。  四人の前に広がっていたのは、衝立のような断崖だった。夕暮れの中で、真っ黒なシルエットになっていた断崖は、高さ二十㍍以上あり、垂直にそびえ立っていた。ほとんど視界がきかない時間帯に入っていたこともあるが、崖は視野の奥まで続いていた。短時間で迂回するのはほとんど無理だ。ケイ達が進んできた側の地盤が沈降してできた大規模な断層のようだった。古い時代のものらしく、表面は風と砂塵でかなり侵食が進んでいた。しかし、四人を喜ばせたのは、幾つかの洞窟が断崖の壁面に確認できたことだ。簡易ハブを張るのに丁度良い大きさだ。 「何とか籠城場所は見つかったようだな」  ピカールが放心した表情で崖を見上げていた。
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