39.オリンポス救援隊

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39.オリンポス救援隊

「こちらキャメル、コロニー・オリンポス、応答願います」  帰還船カールにいたジム・マディソンは、無線機から流れてきたスチュワート・マクグレイスの声で飛び起きた。一瞬、自分がどこにいるのか、今が何時なのかが分からなかった。どうやら椅子に座ったまま、眠っていたらしい。 「こちらオリンポス。感度良好、どうぞ」 「あと一時間ほどでそちらに到着します。受け入れ準備をお願いします」 「予定より随分早いじゃないか。夜通し走ったのか?」 「走ったというほどの速度は出ませんでしたが、何㌔かは進むことができました」 「無茶をしたな」  キャメルは現地に残した四人と分かれたあと、四百㌔余りを、予定より二日早い四日半で駆け抜けた。昨夜の連絡では、オリンポスまであと四十㌔の地点にいたはずだ。危険な夜間走行で距離を稼いだに違いない。 「アンドレッティ」  無線機のあるテーブルから反対側の床で寝転がっていたマーカス・アンドレッティは、寝ぼけ眼でゆっくりと体を起こした。 「寝ている場合じゃないぞ、キャメルがあと一時間で到着だ。メタンの準備はできているか?」 「百㍑タンクが四本、いつでも積み込めます。水素二十㌔もハイブリッドタンクに注入済みです。酸素百㍑、水三百㍑もオーケーです。これでコロニーの備蓄はほとんどゼロです」  寝袋代わりの与圧服は、この数日のハードワークを反映するように、皺くちゃだ。この三日間、二、三時間しか睡眠を取れなかったアンドレッティの目は腫れぼったい。 「キャメルが到着したら、メタンと水素を積み込んで、すぐに出発するぞ」  アンドレッティはマディソンの言った言葉の意味を即座に理解しかねた。 「すぐにって…。しかし、タンクの調整はまだですよ。試運転さえしていない」 「分かっている。調整を待っている時間はない。お前が一人でキャメルで向かうんだ。私は、バーグマンとタンクを仕上げたあとに向かう」  アンドレッティはようやくマディソンの意図に気付いた様子だった。 「ですが、単独行動は…」 「そうだ、規則違反だ。危険なのも充分承知している。しかし、嵐の中に取り残された四人は、もっと危険な状態だ。一刻の猶予もない。こんな時こそ、お前の操縦技術がモノを言う。覚えておけ、規則は時に破るためにあるんだ」  マディソンはすでに与圧服に生命維持パックを装着している。もう何を言っても無駄だろう。 「分かりました。用意した分を全て持って行って良いでしょうか。携帯食も若干必要ですね。四人が数日食べる分ならすぐに用意できます。残りは後で持ってきて下さい」  マディソンは無言で頷いた。 「それでは積み込みの準備をします」
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