39.オリンポス救援隊

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 キャメルがコロニー・オリンポスに姿を現したのは、それからきっちり一時間後だった。マーズ・フロンティアを出発してから三十四日、放射線事故が発生してから二十五日が経っていた。  オリンポスは大気圏をも突き抜けた二万三千㍍という標高もさることながら、山麓の直径が六百㌔と桁違いに大きい。山頂は地平線の遙か向こうにあり、麓から頂を望むことすらかなわない。  巨大な山は自身の莫大な重量のせいで、山の乗った台地そのものが大きく地殻に沈みこんでいる。山の外縁は深さ六㌔という目もくらむような断崖に囲まれていて、近付くものを完璧に拒絶している。天然の要崖に守られた難攻不落の城郭のようだ。  コロニーは、火口の南西部、山を取り囲む断崖から十数㌔離れた地点に建設されている。マーズ・フロンティアが築かれたエリシウムの平野部と異なり、この辺りは、地形が複雑に隆起、沈降し、平原と呼べる土地はほとんどない。点在するわずかばかりの平らな部分にも、家ほどもある火成岩がごろごろ転がっているし、溶岩の流れた跡が大小の渓谷を形作っていた。しかし、コロニー建設にとって、こうした地形はデメリットばかりではない。渓谷や崖、洞窟などの自然地形を上手に使えば、少ない資材で効率的に住居を形成することもできるのだ。  キャメルが凸凹な路面によろよろしながら、コロニーエリアに入って来た時、一カ月前にフロンティアを出発した際に鮮やかだった青色のボディは、違う車と見間違うほど真っ赤に姿を変えていた。荒れ狂う嵐の中を走り、車体に付着した砂塵を身にまとったのだ。 「ようこそコロニー・オリンポスへ」
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