40.大発見

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40.大発見

 キャンプ地に辿り着いたケイたちは、二十㍍ほどある衝立のような崖の一角にあった洞窟を利用して、ハブを設置した。ハブ全体を洞窟に入れることはできなかったが、埃に弱い生命維持装置や燃料電池などの精密機械は、洞窟内に収納できた。真っ暗闇の中でハブを張った四人は、エアロックからテント内にようやく転がり込むと、すぐに泥のような眠りに落ちた。  砂嵐の中をほぼ一日歩き通しだったので、肉体も精神もボロボロだった。与圧服を寝袋にした窮屈な格好だったが、それでもビークルの中で眠るよりは遥かに楽な体勢で、四人はほとんど気絶したように熟睡した。  翌朝、最初に目覚めたのはケイだった。体のあちこちがギシギシと痛んだ。特に膝関節や太ももの筋肉は、少し動くたびに悲鳴を上げた。酸素マスクを少しずらして、かすんでいる目を数回こすった。ハブの小さな三角窓に目をやると、外は少し明るくなっているようだった。砂嵐が収まっていることをかすかに期待していたのだが、薄暗い窓の外では以前と変わらず、砂塵が猛烈な勢いで飛び交っていた。ケイは誰に聞かせるともなくため息をつき、窓に歩み寄った。しかし、その時、窓から見える風景が、何か不自然な感じがして、目を凝らした。赤い砂嵐の奥に、崖の岩肌がおぼろげに見えていた。 「どうしたの?」  振り返ると、ジェニファーが隣に立っていた。 「見てみろよ。あの崖の色」  ジェニファーは目をしかめながら、窓の外を凝視した。崖の岩は、乳白色をしていた。酸化鉄系が多い火星にしては珍しい色だ。ジェニファーの目の色が見る見るうちに変わった。 「ハブでじっとしていてもつまらないので、ちょっと調査してみましょうか」  ジェニファーはそう言うと、すぐにヘルメットや与圧服を準備し始めた。 「今すぐ行くのか?」  ジェニファーはちらりとケイの方を見て、「当たり前でしょう。もしかしたら、大発見かもしれないわよ」とウインクし、生命維持パックの細いチューブやコードをつなぐ作業を続けた。 「分かった。カメラを持っていくので、ちょっと待ってくれよ」
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