40.大発見

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「リンは動物、植物に欠かせない元素。アデノシン三リン酸、ATPという言葉は聞いたことがあるでしょう? 生物のエネルギー発生に欠かせない物質よ。その核になるのがリンよ。肥料の三大要素は知っている?」 「窒素、リン酸、カリウム」 「そう。生物はリンなしには生きていけないのよ。地球上に元素としてのリンはたくさんあるわ。でも、不幸なことに、分布は極めて広く、浅い。効率良く採取しようとすれば、鉱石の形で採掘するしかない。でも鉱脈はごく一部の地域にしか存在しないのよ。北米や中近東の一部だけね。そのわずかな鉱石も間もなく、そう十年もたたずに底を尽くわ。それ以降、地球では、新たな鉱脈を見つけない限り、リンを鉱石という形で効率よく手に入れることは、できなくなってしまうのよ。アメリカはこのことを見越して、もう半世紀近く前からリン鉱石を戦略物資として備蓄しているわ」  ジェニファーは削り取った石ころほどのリン鉱石を掌の上で愛おしむようになで回した。二人は小さな岩の上に並んで腰掛けた。 「リンがなくなると、どうなるんだ」 「深刻なのは、農業が成り立たなくなることよ。少なくとも、先進国でやっているような大規模農業は無理ね。大量生産を放棄したら、地球は十億の人間も食べさせられない。残る五十億人は餓死するしかなくなるわ。リンは何十億もの人の胃袋を支えるのに、必要不可欠な物質なのよ」 「地球上でリンの鉱石がなくなったら」
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