40.大発見

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「ここ二、三十年の間に、下水道や海底の堆積物からリンを抽出して濃縮する技術が格段に向上したわ。マーズ・エンタープライズを何回も火星に送れるだけの費用をかけて、世界中の国に大規模なプラントができたでしょう。でも、それで何とかなっていたのは、天然の鉱石の下支えがあればこそなのよ。人工的に作り出す分だけでは、とても世界の人口は支えきれない。何とか需給が釣り合っているように見えているけど、アフリカやアジア、南米にある貧しい国々の飢えは深刻だわ。異常気象や砂漠化、水の不足という別の問題もあるけど、農業生産の低迷はリンの恒常的な不足に大きな原因があるのよ。供給が今より悪くなるとしたら、それはもう絶望的ね」 「それじゃ、この崖は…」 「そう、文句なしの宝の山よ。プラチナや金よりも遥かに価値があるわ。そもそも幾らお金を積んでも、地球では買うことのできない資源が、手つかずでこんなにあるのよ。しかも、これには面倒な所有者がいない。人類全体で使えるわ」 「埋蔵量はどのくらいかな」 「この崖は高さ二十㍍くらいね。幅と奥行きが分からないと何とも言えないけど、目に見えている範囲だけで、二千万㌧、いや三千万㌧はあるでしょうね。地球上でのリン消費量のほぼ一年分よ。このほかに、嵐に隠れている部分がどのくらいあると思う?」 「多分、この何倍、いや何十倍かな」
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