40.大発見

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 ジェニファーとケイはしばらく、このリン鉱石が地球にもたらす恩恵について語り合った。どうやって採掘するか、地球に効率的に運ぶにはどうしたら良いか、話は尽きなかった。 「この一帯は大昔、海底だったわ。リン鉱石は食物連鎖で蓄積されることが多いから、もしかすると、こういう場所が近くにまだあるかもしれない」  ジェニファーはさりげなく言った。ケイはその一言を聞き流し、次の質問をしようとしたが、今の言葉を思い返し、その意味に驚愕した。 「ジェニファー、食物連鎖って言わなかったか」 「そう、この発見は単にリン鉱石という資源を見つけただけじゃないのよ」 「火星に生命が存在した証拠なのか」 「必ずしもそうとは言い切れない。でも、可能性は極めて高いと思うわ。リン鉱石は数少ないけど、火山活動で鉱床が形成されるケースもあるけど、ここはオリンポスの火口から千㌔近く離れているし、海底火山があった場所でもない。生物が濃縮したというのが最も妥当な推測よ。もし、これが生命活動の残渣だとしたら、火星の太古の海には、プランクトンのような単細胞生物だけじゃなく、魚類や哺乳類のような高等生物もいたでしょう。かなりの種類と量の生命がいなければ、こんな大きな鉱床は形成されない。そうだとしたら、この中から必ず生物の化石が見つかるわね。しかも、火星に海があった時間は、これまで考えられていたより、遥かに長かったことも分かるはずだわ。これだけの量を形成するには、相当な数の生命たちが、億に近い単位の長い時間をかけて進化する必要がある。想像してみて、ここは標準水面から二百㍍下、つまり、海だった時代は水深二百㍍ということ。地球とは随分違うとは思うけど、いろんな魚たちがたくさん泳いでいたはず。地球にも負けない豊かな海だったでしょうね」  ケイは思わず、ジェニファーを抱きしめた。 「素晴らしいよ。掛け値なしの大発見だ。これで、太陽系史は大きく書き変えられる。火星への注目度は一気に高まるよ」 「そうね。この荷物を地球に運ぶためには、マーズ・カーゴが何千回も往復しなくちゃならないわ。でも、その価値はある。世界中にタンカーで石油を運んだように、地球人を飢えから救うリン鉱石を火星からどんどん輸出するのよ。開発機構は迷うことなく、カーゴ船の大型化と定期航路開設に思う存分予算を投入するでしょうね」 「カーゴ船の就航回数が増えるということは、それだけ多くの物資が火星に届くということだ」 「コロニーの発展は約束されたようなものね」  二人は再び抱き合った。
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