40.大発見

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「すぐにみんなに知らせなきゃ」  ケイが腰を上げようとすると、ジェニファーが目で合図をした。 「こちらから言わなくても、もうバレてしまったようよ」  ジェニファーは、ケイの背後を指さした。数㍍離れた場所に、ピカールが立っていた。 「済まない。盗み聞きするつもりはなかったのだが、つい聞こえてしまってね」 「ピカール、この鉱脈を見つけることができただけでも、この旅に出た甲斐はあったというものよ。私はこれを見つけるために、何回も何回も火星を旅したんだから」 「そのようだね。君の話を聞いていて、正直、背筋がゾクゾクしたよ。おめでとう。火星開拓史上、最大の発見だね」 「それを言うなら、ここまで橇を引っ張った全員の功績よ。さらに言えば、クリフォードたちがあんなことにならなければ、この場所に足を踏み入れることはなかったわ。大事な発見は、こんな風に意図しない偶然の上に成り立つことがあるのね」 「でも、何でこれまで見つからなかったのだろう」 「衛星画像は真上から撮影されるわ。この断層はほぼ垂直に切り立っている。高さ二、三十㍍程度の断層だったら、上からの画像じゃ、たとえ解像度が一㍍四方でも判別するのは難しいわ。地下探査にしても、広く分布しているリンの反応の強弱を衛星からは完璧に分析できない」 「そういう訳でジェニファーに発見されるまで、じっとここで待っていたのか。とにかく、凄い発見だ。おめでとう」  ピカールはジェニファーに向かって右手を差し出した。彼女はそれをがっちりと握った。ケイも上から手を添え、三人は目を見合わせて、満足げに微笑んだ。 「この崖は、発見者にちなんで、ジェニー・クリフと名付けることにしよう」 ピカールが言うと、ジェニファーは白い歯をみせて、美しく笑った。
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