41.希望

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41.希望

 ジェニファーの発見は、砂嵐の中でただ助けを待つだけのケイたちを勇気付けた。四人は殺風景なハブの中で、この発見についてひたすら話し合った。まるで、目の前に迫った生存のタイムリミットを忘れるかのように、同じ話題でしつこく論議し合った。 「リン鉱石を大量に送るなら、この場所にもコロニーを作らなければならない。特に、ロケット発射場は重要だ。大重量のペイロードを軌道に上げるんだ。人間が二、三人乗るのとは訳が違う。この責任者は的場博士以外に考えられないな」  ピカールはこの場所でのコロニー建設について意見を述べた。 「責任者は的場が適任だとして、コロニーを作るだけの材料は調達できるのだろうか? ロケットまで量産するとなると、半端な量じゃないぞ。材料だけではない。機械も技術者も全然足りない。まずは、オリンポスの金属生産量を計画の数百倍の規模にする必要があるし、同時に土木、建設機械を動かす人間も要る。地球からBSやMSを何十人も送り込まなければ…。こんな大プロジェクト、果たして開発機構が持ちこたえられるだろうか」  工作機械を専門としているキムが答えた。ジェニファーは小さく頷き、言った。 「でも、今すぐにと言う訳じゃないわ。リン鉱石が枯渇するまでには、あと十年くらいの猶予がある。その間に『時限の窓』が少なくとも四回は開くわ。それに、人間が乗らない船なら『時限の窓』にこだわらない送り方もできるはずよ」 「それはどういうことだい」 「地球と火星の距離が最小になる時に合わせてロケットを飛ばす必要はない、ということよ。最短距離で効率良く大量輸送をしようとするから、ロケットを大型化しなきゃならない訳でしょう。発想を逆転してみたらどうかしら。四、五年余計に掛かっても、中身は鉱石。ちゃんと着けさえすれば問題ないんじゃない? 小分けにして送るなら、一つのペイロードは小さくて済むので、打ち上げ基地の規模も大型化しない。何と言っても、大型船が途中で難破すると、一度に全てを失うわ。小口ならそのリスクも減るんじゃない?」  ジェニファーの発想はユニークだった。 「でも、コロニー建設で問題になるのは、ここに水がないことよ。水がなければ、エネルギーが作れない。水の調達は難問ね?」  この質問にはキムが回答した。 「パイプラインを敷設するのはどうだい? 直線距離ならオリンポスから五百㌔くらいだろう。詳しく調べたら、もっと近い場所にも井戸を掘れる場所があるかもしれない。作業自体は、自動工作ロボットにやらせたらいい。材料面はともかく、技術的にはさほど難しくないはずだよ。火星人口が増えたら、いずれ北極や南極の極冠からパイプラインを引く構想だったんだ。そのテストケースとして、チャレンジするのも面白い」
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