41.希望

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 翌日も朝から、四人はリン鉱石の運搬方法について、アイデアを出し合っていた。生きる希望を湧き立たせる話題がほかに見つからなかったので、まるで定められた日課のように、取り留めない話は続いた。 「帰還船を打ち上げる十㌧クラスのロケットなら、ここにあるメタンやエチレンで何とか比推力を絞りだせる。だが、その規模じゃ話にならないだろう。少なくともその何倍はないと」 「いや、モノを軌道に上げるロケットは、推進剤の種類からみて、十から二十㌧程度がせいぜいだ。小さなロケットを何度も打ち上げて、軌道上で大きな器に移すしかないんじゃないか。地球に向かうカーゴ船はどのくらいの規模が適当なんだろうか?」 「百㌧や二百㌧級でも小さ過ぎるだろう。マーズ・カーゴでも役不足だ。その十倍はないと…。でも、そんな大きさだと、建造するのも運用するのも難しい。巨大過ぎるよ」 「百㌧級を十隻連ねるのはどうだ?」 「貨物列車だな、まるで」 「どっちにしても、器はここでは造れない。地球なら製造できるが、大きいだけに打ち上げは難しい。だが、我々には月がある。月の工場なら充分に器が造れるし、打ち上げも低重力だから比較的容易だ。月から届いたバケツに、鉱石を満杯に詰めて、送り返せばいいんだよ。なんなら無限循環軌道の輸送船を運用する手もある」 「無限循環軌道?」 「地球と火星の間をぐるぐると回る巡回バスみたいなものさ。もちろん無人で運航される。火星に近づいたときに、接近して鉱石を積み込むんだ」  キムのアイデアは止まるところを知らなかった。 「軌道まで鉱石を上げるのに、スペース・エレベーターを使う手もあるぞ。この星は大気が希薄で低重力だから、地球ほど強力なテザー(強化索)がなくても維持できる」 「それは可能性大だな。テザーなら火星産のものが使えそうだ」 「宇宙ステーションも造らなきゃならない。貨物駅がなければ、月から届くバケツや無限巡回バスに鉱石を積み込むのに難儀する」
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