41.希望

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 四人は夕方近くまで話し続けた。まるで、話しを止めたら、そこで命運が尽きてしまうとでも思い込んでいるかのように。だが、ハブの三角窓の外が真っ黒な闇に包まれ始めた頃、長い話は、突然止まった。喉がカラカラになったのだ。ハブの中にしばしの沈黙が訪れた時、ピカールが提案した。 「そろそろ食事にしようか。喉が渇いた」  三人は頷いた。 「今日はご馳走にしよう」 ピカールはそう言うと、収納容器から、食事を取り出した。スペース・ラム(ブロック状の宇宙ラーメン)や照り焼きチキン、コーンビーフ、ビーフジャーキーが並んだ。珍しいところでは、中華風味の野菜スープやリゾットのパックもあった。ピカールは手当たり次第に、食べ物のパックを投げて寄越した。 「デザートも付けよう」  そう言ってピカールは、チョコレートと乾燥アイスクリームも添えた。 「ビタミン・チューブも忘れずにな」  最後に、青いキャップのチューブを放り投げた。 「チューブにはもう飽き飽きだよ。喉を通らなくなってきた」  キムが笑いながら言った。食事を前にして、四人は少しだけ元気を取り戻した。  しかし、食欲とは裏腹に、実際の食事には苦労した。飲料水が残り少ないので、四人はここ数日、水分摂取を極力控えていた。喉がカラカラに渇いた中で、乾燥食材を飲み込むのはさすがに困難だった。味すらよく分からなかった。 「スープはいけるぞ。食べやすいし、これなら水分補給にもなる」  ピカールが目を細めた。 「リゾットも美味いよ。だが、アイスクリームはやめた方がいい。喉がネバネバする」  キムが言った。 「しかし、こんなに豪勢な夕食をとって大丈夫なのか? 残りはそんなにないはずだろう」  ピカールはすぐに返答しなかった。三人はその沈黙の意味を、すぐに悟った。 「酸素はあと一日で底を尽く。このままなら、明日の夕食はない」  改めて宣告するまでもなく、みんながそれを深く理解していたが、ピカールは敢えて確認するように言った。それは、まだ全員が希望を捨てていないことが分かっていたからだ。ピカールの表情には深刻さが感じられない。ケイも不思議と悲壮感を感じずにいた。
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