42人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、奇跡は突然に起こった。
最初、ケイはその音を、無線機の空電音だと思った。そのくらいのかすかな雑音にしか聞こえなかった。だが、雑音は次第に人が話すアクセントのような強弱が聞き取れた。
「無線機、何か言っていないか」
ピカールが反応した。
「…」
しばらくすると、無線機から雑音交じりに、人の声がした。マーカス・アンドレッティの声ようだった。
「こちら…、どうぞ。現在、キャンプ地の北北東…、あと…で到着…」
ハブの中の四人は飛び起きて、小さな無線機の周りに集まった。
「こちらピカール、マーカス、聞こえますか?」
しかし、無線機からはかすかな空電音しか聞こえてこなかった。四人は次々にため息をついた。これでは、マーカスが今どこにいるのか分からない。酸素は間もなくゼロになる。あと半日掛かるような場所を走っているなら絶望的だ。突然飛び込んできた生存への希望は、無線機の沈黙とともに淡くも消え去った。
四人はしばらく無線機の周りに集まり、じっと神経を集中していたが、いくら待っても次の通信は入ってこなかった。仕方なく元の場所に戻って、再び横になった。
「キャメルの送信機は、出力が強い。電波はかなり遠くに届くはずだ。こんなに受信状況が悪いのは、まだ近くには来ていないということなのかもしれない」
ピカールは冷静に分析した。しかし、ジェニファーは違った。
「この場所はかなり低いわよ。しかも、すり鉢状で電波を受信しづらい。さっきの通話が聞き取りづらかったのは、電波状況が悪いからよ。希望は捨てずにおきましょう」
ケイは頷き、ジェニファーの手を強く握った。
最初のコメントを投稿しよう!