42.限界

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 結果として、ジェニファーの見方が当を得ていた。朗報は間もなく、はっきりとした形で届いた。 「キャメルから一方的に送る。現在位置は、そちらのトランスポンダー座標から、北北東十五㌔」  マーカス・アンドレッティからの無線が入ったのは、最初の通話から三十分ほど経ってからだった。その声は、先程より格段に明瞭だった。四人は一斉に飛び起き、歓声を上げた。 「到着はおよそ二時間後。準備して待ってろよ。水素と酸素をたっぷり持ってきたぞ」 「二時間ならぎりぎり間に合う」  マーカスは、ペーター・バーグマンとスチュワート・マクグレイスが三日半かかった道のりを二日半で駆け抜けた。彼らが通った経路がGPSに記録してあったので、ルート選択に時間を費やす必要がなく、スピードを上げることができたのだ。とは言え、この激しい砂嵐の中、五百㌔近い距離を二日半で駆け抜けるのは、並大抵のことではない。実際、マーカスはこの二日間、全く睡眠を取っていなかった。徹夜で走り続けたのだ。 「命拾いした。正直、もうダメかと思ったよ」  ハブの外に出て、与圧服姿でマーカスを出迎えたピカールは、キャメルから降りたアンドレッティに右手を差し出した。 「クリフォードを救った英雄たちをこんな場所で死なせる訳にはいかないさ。今朝、マディソンがタンクでコロニーを出発したよ。三、四日後には到着するはずだ」 「タンク?」 「新しいビークルの名前だよ。キャビンの後方に、寝台車のようなスペースがある快適な車だよ」  マーカスはがっちりと手を握り返した。充血した目の周りには隈ができ、足元は若干ふらついていた。疲労が尋常ではないことは伺えたが、四人の命を救うことができた充実感が表情に溢れていた。 「酸素タンクをすぐに生命維持装置に繋ぐよ」 「ああ、そうしてくれ。残量がほとんどないんだ」  キャメルが運んできた液体酸素のタンクが、ハブの生命維持装置に接続された。ハブの中にいた三人は、すぐに酸素採取口の周りに集まり、空になりかけていた携帯ボンベに酸素を目一杯充填した。俺は酸素残量計の目盛りがどんどん上がっていくのを眺め、体中に安堵感が満ち溢れていくのを心地よく感じた。
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