42.限界

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 水素を吸蔵した高圧ハイブリッド・ボンベを繋ぐと、重低音を響かせ燃料電池が息を吹き返した。ハブの床のヒーターに電気が流れ、すぐにぬくもりが伝わってきた。しばらくして、アンドレッティが水の入ったタンクを手に、ハブに入室してきた。 「喉が渇いているだろう。思い切り飲んでくれ。たっぷり持ってきたよ」  アンドレッティは、そう言ってハブの中央に置いた。四人は水を手ですくい、口元から水をたくさんこぼしながら、貪るように飲んだ。ケイはこんなにうまい水を久しぶりに飲んだ気がした。真夏のマラソンの後に飲んだ水も、このくらいおいしかったかもしれない。  酸素切れの恐怖から解消され、ここ数日悩まされた渇きも存分にいやされた。ハブ内は高揚感で満たされた。半ば死を覚悟した四人は、一様に穏やかな表情で、命を永らえられた安堵感に浸っていた。 「ところで、マーカス。偶然キャンプを張ったこの場所で、ジェニファーがとんでもない発見をしたんだよ」  充分に喉を潤した後、ピカールがおもむろに口を開いた。 「発見? こんな場所でかい?」  アンドレッティは怪訝な顔つきをした。 「ジェニファー、詳しく説明してくれるかな」  ジェニファーが三角窓の方を指差した。 「マーカス、この崖の色を見て。何か思わない?」  アンドレッティは三角窓に歩み寄り、窓の外に目をやった。 「確かに、言われてみると、火星の岩石にしては不思議な色をしている。火成岩でも変成岩でもない。堆積岩の一種のように見える」  ジェニファーは一息入れて、言った。 「これは高純度のリンの鉱石よ」  マーカスは一瞬の間を置いて、驚愕の表情をした。
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