42.限界

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「リンだって? 嘘だろう。この二十年間、あちこち探したが、見つけられなかったじゃないか。リンを蓄積できるだけの生命活動が、この星にはなかったというのが定説だったはずだが…」 「その通りよ。これまで重点的に探した場所はフロンティアの近くやエリシウム火山の周辺ばかり。この星には大規模な生命活動がなかったから、火山性の鉱脈ばかりを探してきたのよ。だから単調で安定したアマゾニス平原は、調べる価値がないと考えられてきた。でも、ここは昔、海底よ。それほど深海でもない。この辺りの海にかつて豊かな生態系があったと仮定すると、この場所にリンが堆積していてもおかしくはないわ」 「ということは…」 「そう。火山性ではなく、生物濃縮によるリン鉱石とみて間違いないと思う」  マーカスはしばらく言葉を返すことができなかった。そのくらい、この発見の重要性は大きいのだ。 「それは…。例えようのないビッグニュースだ。単細胞生物の化石はたまに見つかるが、高度な生命活動の痕跡はまだ発見されていない。ところで、埋蔵量はどのくらいあるんだ」 「正確には分からないけど、数千万㌧以上一億㌧未満といったところね。少なくとも地球上の全使用量の数年分はあると思うわ」 「それは膨大な量だな。今の地球上で採掘されている量にしたら、十年か二十年分に相当する。食糧不足の国は喉から手が出るほど欲しいだろうな」 「さすがマーカス。計算が早いわ」 「すぐにオリンポスに連絡しよう。マディソンからフロンティアにも伝えてもらおう。火星開発機構は大騒ぎになるだろうな」  マーカスはキャメルから持ち込んだ中距離無線機を操作した。 「ちょっと待ってくれ」  ピカールが言った。
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