42.限界

6/7
前へ
/295ページ
次へ
「マディソンやブレ博士に報告するのは、構わないが、地球に伝えるのは…」  マーカスは無線機を操作する手を止め、振り返って言った。 「ケイのスクープにしろ、と言うんだろう。分かっているさ。俺もすぐに考えたよ。オリンポスに着いたら、すぐに生放送で派手にやってもらう。その方がインパクトは強いしな。このニュースが発表されたら、地球は確実に大騒ぎだ。リンの恩恵に預かりたい国が、猛烈な勢いで火星開発機構を突き上げるだろう。本部はすぐに戦略を根本から見直さなきゃならん。この大発見をスクープするまでの一週間で、今後の対応をシミュレーションする時間が稼げる。本部にとっても好都合なはずだ」  ケイは自分抜きで話が決まっていくことへの戸惑いと、今すぐにレポートできないことにいらだちを感じながらも、頭の中では原稿を推敲し始めていた。 「一つお願いがあるんだが…」  ケイはアンドレッティに向かって言った。 「地球向けの送信機と衛星のトランスポンダーをいつでも使えるようにしてもらえるよう、マディソンに伝えて欲しい」  マーカスはちょっと驚いた表情を見せた。 「当たり前じゃないか。もうとっくに使えるよ。ケイの棲みかはカールだぞ。あれには元々衛星通信用のアンテナが装備されている。大した作業をしなくても、チャンネルは開けた。それから、何っていったっけ、UNNのディレクターは?」 「デイブかい」 「ああそうだ。デイブ君に、一週間後にはケイがオリンポスに着くので、生放送枠を空けておくように伝えておいてもらうよ。忙しくなるぞ、覚悟しておいた方がいい」 「嵐の中の行軍やここでの籠城よりは、忙しい方が遥かにマシだよ」
/295ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加