43.コロニー・オリンポス

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43.コロニー・オリンポス

 四日後、タンクに乗ったジム・マディソンがキャンプ地に姿を現した。今度はキャメルの中距離無線機で、所在を逐一把握できたので、五人は到着の一時間前までにハブを撤収し、荷物を積んで出発するだけの状態で、新型ビークルの到着を待った。  タンクはその名の通り、戦車型をした六輪ビークルで、左右二つずつの後輪が強化ゴムのキャタピラ、前輪は幅広のタイヤで走る。キャメルが最も車高を上げたよりは低重心だが、バギーに比べると、明らかに背が高く、ごつごつした外観をしている。  キャビンは、前方が流線型の強化プラスチック風防に覆われているが、後部はスモークシールドに囲まれた直方体の箱型になっていた。この部分が、長期の旅の際にハブ代わりとなる「キャンピングカー」の部分だ。三層構造になった風防の隙間には、不凍液を注入することができ、万一の際には宇宙放射線の被曝を防ぐ楯にもなるように工夫されている。 「予定通りの到着ですね。エンジン調整がうまくいきましたね」  タンクから降りてきたマディソンに、マーカス・アンドレッティが歩み寄った 「バーグマンの調子が予想以上に悪くて、休み休みの作業になったが、奴はベストを尽くした。エンジンは頗る快調だ。このまま星を一周できそうなくらいだな」 「乗り心地はどうです?」  アンドレッティはタンクに近づき、キャタピラの砂をグローブの指先でぬぐった。 「後輪がキャタピラなので、振動はやむを得ない。だが、本物の戦車に比べたら、リムジンみたいなものだ。速度はバギーほどでないが、オフロードの走行能力はキャメルと同等か、それ以上。キャビンの後方スペースはまだ使っていないが、快適そうだ。贅沢過ぎて、ジェニファーだけに使わせるのは、もったいない」 「もったいないって?」  二人が振り返ると、ジェニファーがそこに立っていた。 「ああ、ジェニファー。このビークルはほとんど君のために配備されたようなものだ。ちょっと内装が贅沢過ぎると言ったんだよ」 「そんなに豪華なの? 使うのが楽しみだわ。でも、この機能が加わってハブを使わなくて済む分、水素や水の消費量は格段に少なくて済むわ。それだけ長く旅ができることになるんだから、結局はコロニーの為になるはずよ。そうですよね。マディソン司令」  マディソンは苦笑した。 「まあ、そう言えなくもないな。今回は世紀の大発見をした功労者を立てておくか」  アンドレッティは改めてジェニファーの後ろにそびえ立つリン鉱石の崖を見上げた。
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