43.コロニー・オリンポス

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 タンクとキャメルは、並んでコロニーに進入していった。コロニーエリアは、広さが十㌶ほどの盆地で、三方は小高い丘に囲まれている。唯一開けていた進入路には、家ほどもある巨大な火山岩が二つ、門柱のように聳えていた。マディソンら先発隊はこのペアの巨岩を「オリンポス・ゲート」と呼んでいた。  二台のビークルは、この間を通って、コロニーに入った。マーズ・フロンティアと比べると平野部の面積は格段に狭く、タンクのキャビンから辺りを見回したケイは、思わず「狭いな」と口にした。地面も起伏に富んでいて、ビークルの車体は時々大きく傾いた。条件が悪い場所のように映るが、火山地帯にまとまった平坦地はほとんどない。 「ひと段落ついたら、この凸凹を何とかしないとな。重機がスムーズに走れない」  アンドレッティはよろよろするキャビンにあっても、巧みにハンドルをさばき、居住棟のある方角にビークルを走らせた。  十年余りの歳月をかけて整備を重ねたフロンティアと違い、コロニー・オリンポスは、設備も貧弱で閑散としている。土と水による防護壁もまだ整備されていないハブが二棟、かまぼこ型の外壁をむき出しにしたまま、並んで横たわっていた。ハブの奥には水とメタンを生成、貯留するための機械棟とタンクが並んでいる。これらは俺の搭乗したエンタープライズがここに落としていった。  少し離れた場所には、マディソンらが乗ってきたカールが鎮座している。フロンティアの空港で見た時は、銀色に輝いていたが、大気圏再突入を経た今では、焼け焦げたような鈍い色に変わり果てていた。  このコロニーから十㌔ほど離れた地点には、核融合発電装置があるが、まだ稼動はしていない。嵐が収まった後、スチュワート・マクグレイスが反応炉を作動させ、試運転を開始するのだ。  現在のオリンポスにある設備はこれだけだ。半年後にマーズ・エンタープライズ2号機が、最新式のBMIサイボーグ三体とコロニー住人用のハブや金属精錬工場の主要設備を届ける。  金属製造に関しては、小さな電気式溶鉱炉のほか、チタンの塩化製錬、アルミニウムの電化製錬用装置も含まれている。これらが到着すると、クリフ・リチャーズの腕の見せ所となる。  オリンポスに乗り込んだメンバーにとって、今最も重要な仕事は、エンタープライズ2の到着までに、電力や水、水素、メタン、エチレンなどのエネルギー供給態勢を整えることだ。
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