43.コロニー・オリンポス

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「どうだい、働き甲斐のある場所だろう?」  アンドレッティが後部座席を振り返った。 「驚くほどすっきりしたコロニーね。半年後の準備をする以前に、自分たちが生き残れるかどうかも怪しいわ」  ジェニファーの言葉に答える代わりに、アンドレッティは大きな声で笑った。 「俺たちBSにとっては、一から自分たちのマチが作れるんだから、何もない場所の方が燃えてくるね。マディソンが言っていたように、クリフの会社との契約が見直されれば、すぐにでも高炉建設に取り掛かる」 「地球とは同じような高炉になるんだろうか?」  ケイが質問した。金属精錬のことは今ひとつよく分からない。 「原理は同じようなものだが、中身はちょっと違う。まず、この星では、熱源にコークスや石炭は使えない。ズバリ燃料は水素だよ。熱を発生させ、鉄鉱石を還元するのに水素を使うんだ。地球よりも高炉の高さを取る必要がないので、建設はしやすいはずだ。地形の特徴もうまく使って、簡易型の高炉を建設して、銑鉄を量産するのが、当面の目標さ。それと、個人的にはもう一つ、すぐに始めたいことがあるんだ」 「どんなことだい?」 「ハブの周辺や道路部分に煉瓦を敷き詰めようかと思っているんだ。この案にはペーターも賛成してくれた」 「煉瓦?」 「そうさ。この辺りの赤土は、成分をちょっとだけ調整してやれば、いい粘土になる。釜は簡単に作れる。発電所が稼動して、電力にちょっと余裕がでた後に、挑戦しようと思っているんだ」 「何だか素敵な話ね」 「この凸凹を平らにならす土木工事で発生する残土で煉瓦を焼く。発想はなかなかだろう。いずれ、ハブや工場の壁にも使ってみたいと思っている。フロンティアとは全然違う、新しく斬新な街並みを作ってみたい」  マーカス・アンドレッティ軽やかに言った。まるで鼻歌でも歌っているかのようだった。
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