44.スクープ

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 ケイの言葉が地球に届くのは十八分後だ。言いたいことは山ほどあったが、今は取りあえず、リン鉱脈発見を一刻も早くニュースにしなければならない。通信波が火星と地球を往復する三十分ほどの間にも、やることは山ほどある。デイブは最初の通信で、リン鉱脈の件に全く触れなかった。本部はケイの到着まで秘密を保持できたようだ。その陰に、ブレ博士の尽力があったことは間違いない。しかし、安心は禁物だ。本部がいつまでもこのニュースを隠し続けられるとは考えられない。オリンポス班到着の一報が流れた後、ハイエナのような記者連中が、本部のあらゆる情報源に一斉攻撃を仕掛けているのだ。一分でも早く、このスクープを電波に乗せないと、他社に足元をすくわれる。ケイは少し焦った。  長い旅の間に撮りためた携帯用のHDDをミニ・コンピューターにつなぎ、膨大な映像の中から、砂嵐の前兆の雷雲を撮影した数分間と、ジェニファーがリン鉱石を発見した瞬間を収めた映像を探した。十分ほどかけて、目的の映像を選び出したケイは、すぐに通信機器をオンラインにした。ブレ博士が約束してくれたように、火星を周回している通信衛星のトランスポンダーは、一チャンネルだけきちんと空いていた。一刻が惜しいので、映像は未編集のまま圧縮処理をして地球に送信した。  選択した二つの場面合わせて、映像は九分四十三秒分あった。これを送り終えるために、十数分が必要だ。ケイは、往復三十分ずつ掛かるデイブとのもどかしい会話の合間に、映像を送出し、カールの中にカメラを据え付け、スタジオの準備を始めた。助手はいない。何もかも一人でやらなければならなかった。ジェフファーは気をきかせて、到着以来、一度もカールに姿を見せていない。もっとも今ごろは、ハブの中でソニック・シャワーを浴びているかもしれない。
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