44.スクープ

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「次のニュースか? 次は午後六時、今から三十五分後だぞ。厳しいんじゃないか。この声が届いている頃には、もう二十分後になっている。もし、突っ込むなら、簡単な原稿を送ってくれ。もしかすると、最後のニュースにならギリギリ間に合うかもしれない。返信を待っている余裕はない。原稿が送られてきたら、突っ込むよ。あ、今、映像の受信を開始した。絵は何とかなるな。とりあえず、原稿だ。すぐに送ってくれ」  ケイは腕時計をみた。ニュース番組の開始まであと十九分。二十五分番組なので、終了までは四十四分ある。自分のコメントを収録している時間はない。俺は簡易スタジオの設置作業をやめ、コンピューターに向かった。 「デイブ、メインの話は二つ目のフォルダに入っている白い色の崖が写っている部分だ。これが何だか分かるか? リンの鉱脈だよ。火星に送り込まれた地質学者が、十年以上も血眼になって探して、見つからなかった代物さ。ジェニファーによると、相当な高純度で、ざっと計算しただけでも、埋蔵量は地球上で消費されるリン鉱石の十年分以上ある。これをトップニュースにしなくて、何をトップにする? 原稿は五分以内に送る。全文はそれほど長くない。キャスターに繰り返し何度も読んでもらってくれ」  リン鉱石の崖、ジェニー・クリフの傍らで、じっと助けを待っている間、有り余る時間を使ってレポートの原稿を書き溜めていた。そうすることで、死への恐怖や絶望感と戦った。中でも、リン鉱石の発見を伝える部分は、隣に第一発見者の地質学者がいたので、専門的な知識も充分に加味した奥の深い内容に仕上がっていた。ケイはオリンポス到着の下りを、そこにざっと付け加え、三分後には原稿を送信し終えた。
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