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「ところで、ケイ。四人目のマーズ・チャイルドの父親になった感想は?」
「何と言うか、複雑な気分です。うれしいのは確かですが、父親になるという実感はまだ湧いてきません。医者がいないのに無事に出産できるだろうか、ここでの任務に支障がでないだろうかとか、いろいろなことを考えてしまって…」
ケイは控えめに答えた。
「そんなこと、気にしなくていい。ジェニファーには充分な産休を与える。そのあとは、しっかり働いてもらうがな。出産については、先輩パパのキムがいるから、何の心配もない。知っていたか? キムは医学博士でもあるんだぞ」
「専門は耳鼻咽喉科だけどね」
キムが笑った。
当のジェニファーは、いつもと違って、微笑んだまま何も喋らずに、男たちの会話を聞いていた。柔らかい表情は、早くも母親の落ち着きを漂わせていた。
マディソンが上機嫌なのには理由があった。あとで分かったことなのだが、マース・フェニックス3号機で出発する二人のMSのうち、一人がマディソンの大学時代の後輩であることが、最終決定したのだ。シモンズ大佐の強力な後押しがあったのは間違いない。機嫌が良くなるのも当然だった。気分が乗ってくると、いつもの持論を力説し始めた。
「中国コロニーを目の前にして、軍隊はともかく、警察すらいないのは問題だと思いませんか。生まれてくるマーズ・チャイルドを誰がどうやって守ればいいのですか? ここには丸腰の科学者とエンジニア、それに記者しかいません」
「火星」到着後間もなく、マディソンはケイの録画インタビューでこう答えた。
「リン鉱石は文字通りの宝物です。略奪を企てるものが現れたら、どうしますか? 丸腰のままでは、この貴重な資源を守ることができません。何らかの力が必要な段階に来たと言わねばなりません」
ケイは「略奪を企てるものがいたら」という部分をカットして、地球に送信した。あからさまに中国を刺激すると思ったからだ。将来的にはそのようなことを考えているかもしれないが、今は彼らも新しいコロニーで生きていくのに精一杯だ。
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