45.新しい命

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 だが、マディソンのような考え方を持つものは少なくなかった。地球では、「火星に警察力が必要か」という議論がまき起こっていた。デイブのメールにも、火星コロニーに警察機能や軍事力を整備するべきかどうか―がアメリカの上、下院で真剣に論議されていると書かれてあった。リン鉱石という一級品の資源が見つかった以上、近い将来にその日はやって来るだろう。  ケイはふと疑問に思った。警察や軍隊が不法行為に目を光らせるとして、誰が「不法」を決めるのだ。警察や軍隊が司法権を発動する前提となる法律がこの星にはない。では法律を制定するとして、誰が法律を定めるのか。この星は一体どこの領土なのだ。  そもそも「宇宙条約」は、地球以外の惑星に領土権を認めていない。とすれば、何の根拠に基づいて警察が司法権を行使できるのか。信じたくないことではあるが、中国がリン鉱石を奪いに来たとして、それを打ち払うにはリン鉱石がこちらの所有物だと証明しなくてはならない。しかし、それは条約で認められていないのだ。どちらかが先に軍隊を配備したら、事態はより一層複雑になる。先に軍隊を配備した方が地球世論で非難されることになるだろうが、七千万㌔離れた火星では批判よりも怖いのは、無防備のままでいて征服されることだ。フロンティアやオリンポスが中国軍に占拠される姿は想像したくない。目まぐるしく変化する火星の情勢に、ケイは少なからず戸惑っていた。
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