45.新しい命

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 コロニー・オリンポスの整備は順調に進んでいた。核融合炉の起動後、マクグレイスの調整のおかげで、発電量は安定していた。BS二人もおよそ一カ月掛かりで、二カ所の中継・変電ポイントを含めたマイクロ波による送電システムを完成させた。これまでの小さな発電装置と比べると、優に百倍以上の電力がコロニーに届くようになり、エネルギーの素となる水素の生成量も格段に増え、備蓄に回すことができるようになった。  豊富な水素を使って、メタン、エチレンの製造ペースをそれまでの数倍に上げた。アンドレッティとバーグマンは、余った電気を活用して、せっせと煉瓦を焼き始めた。焼き上がった煉瓦ブロックは、ハブの近くに積み上げられた。最初は小さな山だったが、ひと月も経つころには、小さな家が建つほどに貯まってきた。  ジェニファーはコロニーから三十㌔ほど離れた場所で、アルミニウム含有率が三五%もあるボーキサイト鉱脈を発見した。クリフが、この鉱石を使って、アルミニウム製錬の基礎実験に成功したのは、エンタープライズ2到着の二週間前だった。来週からはキャメルを改造した「トラック」で、鉱石をコロニーの片隅に設けた精錬施設にピストン輸送する体制を組むことになった。宇宙線事故や砂嵐の危機を克服したオリンポスの住人たちは、今、将来のコロニー発展を全く疑っていなかった。  ケイはこうしたコロニー建設のニュースを、毎日、地球に送った。ビークル班の遭難と救出、リン鉱床の発見を契機に、火星への関心はかつてないほどに高まっていた。ひと頃の低迷期が信じられないほど、火星関連のニュースや科学特番の視聴率は高く、ケイは自局のテレビ放送だけでなく、系列のネットニュースや雑誌社向けにも原稿を書かなければならなかった。朝起きてから夜眠るまで、ほとんど休みなく、取材、撮影と原稿執筆を繰り返していた。
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