46.悪夢

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46.悪夢

 その事故が起こったのは、マーズ・エンタープライズ2の到着を一週間後に控えた午後だった。中国の「火星」は打ち上げた六基のうち、無人の二基が既に火星に到着していた。最初の有人機は半月後にやって来る。  コロニー・オリンポスでは、核融合発電装置が本来の能力を発揮し始め、電気精錬に必要なだけの電力を絞り出せるメドが立った。クリフ・リチャーズは、工場建設資材の到着に向けて、アルミニウムの製造実験を本格化させていた。火星開発機構とリチャーズの会社は、金属工場の建設で協力することで合意していたので、企業秘密という制約はすでに取り払われていた。  ボーキサイト鉱脈から鉱石を運搬する作業も軌道に乗っていた。大量輸送できる運搬機材はないので、鉱石は貨物スペースを改造したキャメルで運んだ。積載量は不要な資材を下ろしても一㌧に満たず、日に何度かピストン輸送しても、運べる量はたかが知れていた。工場が完成し、製錬作業が軌道に乗れば、鉱石はいくらあっても充分ということはないので、少しでも貯金を増やすため、キャメルは三十㌔も離れた採掘現場との間を日に五度も往復して、鉱石を工場建設予定地の片隅に野積みしていた。
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