46.悪夢

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 鉱石運搬には通常、BSの二人が当たっていた。しかし、その日に限って、二人のBSには送電装置のメンテナンスという緊急任務が入った。代わりにキャメルのハンドルを握ったのは、ジェニファーだった。  運搬の仕事そのものは単純だった。コロニーから南に三十㌔ほど離れた砕石場に行き、鉱石を積んで帰って来るだけ。積み込み作業は、自動作業ロボットがやってくれる。重い鉱石を積んで何度も往復した道は、障害物がほとんどなく、舗装道路のように踏み固められている。片道の所要時間は一時間程度。帰路は荷物が重いので、ペースは若干落ちるが、速度が低い分だけ操縦上の危険も減る。これまでにこなしてきた仕事と比較しても、難しい作業では決してなかったはずだった。むしろ火星任務としては、簡単な部類に入る。  ジェニファーは気軽にBSの代役を引き受け、正午前にコロニーを出発した。彼女は地質調査にいつも一人で出掛けていたので、単独行動を誰も咎めなかった。 「夕飯までに帰るわ」  それがジェニファーと交わした最後の会話となった。
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