47.帰還命令

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47.帰還命令

 ジェニファーは二日後、全員の手でコロニーを見下ろす丘の上に運ばれ、埋葬された。この丘はジェニファーの姓を取って「ハイド・ヒル」と名付けられた。 <地球時間の二日、コロニー・オリンポスから東南三十㌔の地点にあるボーキサイト鉱石の採掘場で、積んであった鉱石が崩れて火星探査車を直撃しました。この事故で、探査車の生命維持装置が全壊し、運搬作業に当たっていたジェニファー・ハイドさんが約四時間後に死亡しました。死因は窒息死でした。  崩れてきた鉱石は直径五十㌢程度のものが十数個あり、そのうちの数個が、探査車の生命維持装置や酸素、メタンのタンクを直撃したため、呼吸用の酸素や探査車の燃料のメタン、燃料電池を動かす水素などが全て流出してしまったということです。コロニーにあったもう一台の探査車が救助に向かいましたが、到着した時点でハイドさんは既に死亡していました。  ハイドさんは二十七歳。イギリス・マンチェスター出身の地質学博士です。五年前、マーズ・フェニックス2号機で火星に着任しました。今年、自ら申し出て火星滞在を延長したばかりでした。コロニー・オリンポス建設に派遣される途中、宇宙放射線事故に遭った隊員の救助活動に加わったほか、アマゾニス平原の東部で大規模なリン鉱脈を発見する功績を残しました。鉱脈所在地はハイドさんの名前を取って「ジェニー・クリフ」と名付けられています。故国・イギリスからガーター勲章が授与されることも決まっていました。  コロニーでは地球時間の四日、コロニーで葬儀が行われました。ハイドさんは、コロニーを見下ろす丘の上に埋葬されました>
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